お葬式のマナー
八百万の神を祀る「神道」
神道は、日本に仏教が伝来するずっと昔から日本に根付いてきた日本独自の宗教です。唯一無二の神を敬い、ただ一つの教えを守る仏教やキリスト教と違い、特定の神はいません。自然の万物に神がいると考える「八百万(やおよろず)の神」、つまり多神教が神道の考え方です。
山の神、海の神、風の神など自然を司る神から、作物の神、商売の神、学問の神、縁結びの神など、生活に関わる神まで様々の神がいると考えられています。
神道は日本人が自然と共に生きて来た歴史を大きく反映しており、自然に対する畏敬の念を神化させたものと言えるでしょう。
そのため「教え」と言うものは存在せず、仏教の「経典」やキリスト教の「聖書」などにあたるものはありません。全国各地で語り継がれてきた「神話」が神の存在を示すものであると言えます。
日本人は太古の昔から、豊作なら畑の神に感謝し、大漁なら海の神に感謝し、商売が繁盛すれば商売の神に感謝し、来年の恵みを祈って様々な祭りを行ってきたのです。
死後の世界に対する考え方
しかし西暦500年頃に中国から伝来した仏教が広まり、江戸時代に檀家制度が作られて一般的な宗教として信仰されるようになってからは、今では神式のお葬式はすっかり少数派となってしまいました。
宗派によって違いがあるものの、仏教では死者は三途の川を渡って冥途に向かうとされています。そこで十王による四十九日間に渡る裁きを受け、四十九日が明けるとようやく来世の行き先が決まると考えられており、全ての法要はこの教えによって営まれています。
これに対して、神式では死者は全てが神になると考えられています。
死者の魂は肉体を出て家の守護神となり、遺族が死者を守護神として家に迎え入れる儀式が神式のお葬式という事になります。
神道には日本人の先祖崇拝の考え方も色濃く反映されているため、「先祖代々の霊」が守護神となってその家を守ってくれると考え、先祖の霊を大切にするのです。
神式のお葬式では「遷霊祭」と言って故人の霊を遺体から霊璽(れいじ・仏教でいう位牌のようなもの)に移し、家の守り神として祀る儀式を行います。
挨拶で「冥福」「成仏」「供養」という言葉は使ってはいけない
このように死に対する考え方が仏教と神道では異なるので、神式のお葬式では仏教用語は使いません。日本のお葬式は9割が仏式で行われるため、私たちは知らず知らずのうちに仏教用語を一般的なお悔やみの言葉と勘違いしていることがあり、注意が必要です。「冥福」「成仏」「供養」「往生」などは仏教用語のため、使わないように気を付けましょう。かわりに御霊の「平安」「拝礼」などと言った言葉が神式のお葬式ではお悔やみの言葉になります。神道では死者の霊魂を「御霊」と呼びますので、その安らぎを祈ると言った言葉が相応しいと言えます。
「御霊のご平安をお祈りいたします」
「御霊の安らかならんことをお祈り申し上げております。」
「拝礼させていただきます」
「心より拝礼させていただきます」
などと言ったり、
「この度は突然のことでお悔やみ申し上げます」
「謹んでお悔やみ申し上げます」
「この度は誠にご愁傷様です」
などは、宗教に関係なく使えるお悔やみの言葉です。
「色々」「度々」「くれぐれ」「またまた」「重ね重ね」「引き続き」などの忌言葉を使わないように配慮する点も、宗教に関わらず共通のマナーとなります。
大切なのは、最愛の家族を亡くしたばかりの遺族の気持ちに寄り添うことです。宗教用語を使わないようにするという事以外は、どの宗教で行われるお葬式でもお悔やみの基本は同じだと言えます。
「シーン別お悔やみの言葉」でも、場面に応じたお悔やみの言葉をご紹介していますので、参考にしてみて下さい。