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影膳の意味と由来

もともとは、長期間家にいない人の無事を祈る家族が、留守宅で供えていたお膳のことを影膳と呼んでいました。巡礼や出稼ぎ、漁に出るなどで家族が長期間家を空けるときに、家族の無事と、出先で飢えないように祈って供えられていたものです。戦時中は危険な場所に身を置く出征者のためにも供えられていました。

現在のように連絡手段が発達していなかった頃は、離れた場所にいる人と連絡を取り合うのがとても難しく、その無事を知る手段が限られていました。
家族が無事か、また飢えるようなことがないかと、ただ心配するしかなかったのです。

そんな家族の無事を祈る想いを影膳という形で表現したのが由来です。

これ自体は宗教的な習慣ではなく、俗習の一つです。地域を問わず全国で見られますが、回数や期間は地域によって特徴があるようです。

しかし、現在のようにインターネットや電話回線の発達によってどこにいても連絡が取れるようになってからは、以前のように離れた家族を思って影膳を供えることは少なくなりました。

 

お葬式で供えられる影膳

このように安全祈願の一つとして行われていた影膳ですが、故人が浄土へと旅立っていくことを旅人になぞらえて、お葬式でのお斎や仏壇に供えるお膳も影膳と呼びます。

お通夜の通夜ぶるまいやお葬式でのお斎では、遺族や参列者たちが食事をするタイミングで供えられます。

お通夜のように大皿で料理が振舞われるときはそこから取り分けたり、お斎の際には参列者と同じ食事をもう一人分用意する方法もありますが、葬儀社に依頼すれば影膳のセットを用意してくれます。価格は3,000円前後が一般的なようです。

 

お通夜やお葬式での影膳の他には、初七日や49日の法要の際にも影膳を供えます。

故人が亡くなってから、十王の審判が下って浄土へと召される49日目の満中陰までの中陰法要では、故人が浄土への旅をしていると考えます。浄土へとたどり着いて成仏できるよう、故人の無事を祈って影膳を供えるのです。

同じ理由から、後飾りに自宅で影膳を供えることもあります。

影膳で使用する食器のことを仏膳椀(ぶつぜんわん)と呼び、仏膳椀の他に、供養膳、霊供膳、霊具膳などと呼ばれるものがありますが、特に違いはありません。

多くは一人分の食事が乗るくらいの小さな台に、お椀や小鉢などを乗せて使います。影膳の椀には、以下の五つのお椀があります。

飯椀(ご飯用)

汁椀(お味噌汁やお吸い物など、汁物用)

壺椀(煮物、和え物用)

平椀(煮物用)

高杯(皿)(お漬物用)

無垢材を使ったシンプルなものから、漆塗りや淵に金箔を施したものなど様々な種類があり、仏具店や通販でも手に入れることができます。

影膳のマナー

影膳では、位牌や遺影から見て正しい位置になるように並べます。そのため、こちらから見ると逆に並べているように見えますが、故人から見れば正しい向きになっています。

また、影膳に盛り付けるのは、一汁三菜の精進料理です。

盛り付ける料理には得に決まりはありませんが、肉や魚、卵など動物性の食材を使った料理は殺生として避けられています。
また、にんにくやニラなどの辛味系の食材は匂いがきついため、煩悩を呼び起こして修行の妨げになると考えられており、影膳には出さない方が良い食材です。

影膳として用意した食事は、「お下がり」といって家族で残さず頂くのがマナーです。故人の膳を家族が食べること自体も供養いなるとされているため、お通夜やお葬式で故人に供えた影膳も持ち帰って頂くようにしましょう。

宗派による影膳の違い

さて、霊前や仏前に備える影膳ですが、浄土真宗では行いません。

浄土真宗では大乗仏教の教えに則り、誰もが亡くなったと同時に成仏できる「往生即身仏(おうじょうそくしんじょうぶつ)」を唱えています。

そのため、他の宗派で行うような故人の成仏を祈るための読経や引導、中陰法要などが無く、同じ考えから影膳も備えません。
また宗派によって内容や配置が多少異なります。迷った場合には、葬儀社に相談してみると良いでしょう。

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