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「引導を渡す」の意味

「引導(いんどう)を渡す」と辞書で調べると、“最期の決意を宣告してあきらめさせる”と書かれており、一般的には「最期」を「宣告」する際に慣用句として使われています。

例えば、スポーツ選手に「引導を渡す」という時は、戦力外であることを通告して、継続を諦めさせる場合などに使われます。成績の上がらない社員を解雇することも、「引導を渡す」などと表現されます。

見込みのない相手に最後の宣告をするような、ネガティブなシーンに使われる言葉ですが、実は語源を辿ると仏教に由来している仏語です。死者が迷わずに浄土へ渡れるよう、導くことを意味しています。

「引導を渡す」の語源

「引導」を調べると、「人々を導いて仏道に引き入れること。死者を葬る前に法語などを説き、浄土へ導くこと。」と書いてあります。

“導く”という言葉が入っている通り、実は死者を導くことを意味した言葉なのです。

仏教の世界では、死者は三途の河を渡ってあの世へと旅立つとされています。しかし、死者の中にはこの世に残した家族への想いが断ち切れず、三途の河を渡らずにこの世をさまよってしまう場合もあります。

死者が死を受け入れることが出来るように説き、迷わず旅立てるよう、そして無事に浄土へ行きつくことができるよう、導師によって導くことが本来の「引導を渡す」という意味です。

導師とは」でご紹介しているとおり、本来の導師とは仏教の教えを説く説教者としての役割りを持つものを指す言葉です。

但しお葬式においては、死者の霊を弔い、中心となって式を執り行う僧侶の役名となっており、死者に引導を渡すのが大きな役目となっています

宗派ごとの「引導」の儀式

引導を渡す儀式は仏式のお葬式特有のもので、他の宗教にはありません。仏教でもすべての宗派で行われるわけではなく、浄土宗、臨済宗、曹洞宗、真言宗などで見られる儀式です。

以下に、宗派ごとの引導の儀式についてご紹介します。

 

浄土宗-下炬引導

浄土宗の儀式では、引導を渡すことを下炬引導(あこいんどう)、または引導下炬と言い、最も重要とされています。下炬引導は故人を浄土に導くために引導を渡す儀式で、火葬の点火を導師が行います。下炬は火葬を意味する言葉で、火をつける行為を意味しています。
現在の火葬は火葬場で行われるため、実際の点火はせず儀式のみ行われます。

松明に見立てた法具を二つ手にとり一方を捨て、一方の松明で円を描き、「下炬の偈(あこのげ)」を読み上げたあとにもう一本も捨てます。宗派によって松明を二本使う場合もあれば、一本のみの場合もあります。

引導の儀式で使われる松明(たいまつ)については「松明とは」で詳しく説明していますので、参考にしてみて下さい。

 

禅宗系-引導法語

臨済宗や曹洞宗などの禅宗系の宗派では「引導法語(いんどうほうご)」と呼ばれ、導師によって法語が読まれます。法語の最期に「喝!」という大きな声を出すのが禅宗系の法語の特徴です。
法語の内容は仏の教えを中心に、戒名や生前の徳を称えることもあります。

 

真言宗-引導の作法

密教の一つである真言宗では、引導の儀式のことを「引導の作法」と言います。故人の成仏即身を祈って、不動灌頂や弥勒三種の印明を授けます。最後に真言宗の経典である「理趣経(りしゅきょう)」を唱えて引導の作法は終わります。

 

浄土真宗
浄土真宗では松明を使った引導の儀式はありません。

浄土宗と浄土真宗」でもご紹介していますが、同じ浄土系でも浄土宗と浄土真宗では異なる部分が多くあります。浄土真宗では、死者は誰もが浄土へ行けると考えられているため、導師の浄土への導きは必要が無いのです。

このように宗派によって多少の違いはありますが、その意味を知ると「引導を渡す」ことの重要性がよく分かります。「引導を渡す」儀式は、お葬式の中でもクライマックスにあたる大切な儀式だと言えるでしょう。

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