お葬式の豆知識
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樒とは
仏事にお供え物などとして使われている樒(しきみ)は、なぜ仏事に使われるようになったのでしょうか。ここでは、樒の意味や由来と、時代によって変わった風習や習慣についても併せてご紹介いたします。
樒とは
樒は、お通夜やお葬式、法要などの仏事でよく使用される植物です。お墓や仏壇へのお供えにも使われ、「しきみ」、「しきび」などと呼ばれます。神事で使用される「榊(さかき)」とよく似ていますが、別の植物です。
樒は白い花を咲かせるマツブサ科シキミ属の常緑樹で、一般に3mほどの小高木ですが、まれに10mほどの高さに成長することもあります。本州では関東地方から西全域、海外では台湾や中国などアジアの山林で良く見られます。
葉や枝から独特の香りを放ち、青々とした光沢のある葉が特徴的で、春先には細長い花びらを持つ小さな花を咲かせ、四季を通して見るものを楽しませてくれます。
しかしシンプルでおだやかな見た目ながら、根から葉、花にいたるまですべての部分に毒が含まれており、特に果実にはアニサチンという猛毒が含まれています。少量を食べるだけで中毒症状に陥り、ひどい場合は死に至る危険性があり、植物の中では唯一劇薬に指定されいています。果実は中華料理でよく使用される「八角」と似ていますが、誤って誤食するとたいへん危険です。
「しきみ」という名前の由来は諸説ありますが、四季を通して葉が美しい緑を保つことから「四季美(しきみ)」と呼ぶようになったという説もあれば、年中芽を出すことから「四季芽」、また樒の実がもつ毒性から「悪しき実」と言われ、やがて「あ」が省かれて「しきみ」という言葉が定着したという説などがあります。
どれが正しいのか、詳しいことは分かっていません。
仏事に使われるようになったのはいつから?
樒が仏教と関りが深いのは、日本に伝来した経緯にも関係しています。樒が日本に伝わったのは奈良時代で、インドから中国へ、そして中国から日本へ伝わったとされており、それを伝えたのは律宗の開祖である鑑真だとされています。
しかし現在仏事に使用されている樒は日本固有のものであり、その伝来については定かではありません。
樒が仏事に使われ始めた頃は遺体を土葬するのが一般的で、埋葬した場所を野犬などの動物が掘り返してしまうという問題が多くありました。そのため、動物が嫌がる臭いや毒を持つ樒を使い、埋葬場所の周りに植えたり枝を刺したりして対策をしていたと言われています。
悪霊除けや臭いを消すという意味も
動物など、物理的に遺体を傷つける邪悪なものから守ることから、「悪霊」「邪気」をも払う象徴と考えられるようになり、祭壇や枕飾りなどに使用されてきました。
樒が持つ独特の香りは、魔除けの効果や死臭を打ち消す効果もあるとして、仏事においてはお線香や抹香と同じようなものとして扱われていたようです。現在のようにドライアイスの無い時代には死臭を消すためのお香としても使われて来ました。地域によっては、埋葬時や納骨を行う際に、樒を一本お供えするという風習もあります。
時代とともに変わる樒の取り入れかた
土葬が中心だった時代に仏事で使われるようになった風習は、火葬が中心になった現代でも色濃く残っています。通夜や葬儀ではお供えする植物として飾られたり、門樒として葬儀会場の入り口に飾られたりする他、墓地では墓石の脇に植えられることも多くあります。
また、「悪霊を遺体に近づけないように」との気持ちを込めて、枕飾りの一つとして使用されています。仏式での供花は生花や花輪などが使われることが多くありますが、日蓮宗や創価学会のように樒を供花の代わりとして供えることもあります。
また浄土真宗では水を供えず、かわりに華瓶(けびょう)という仏具に樒を挿して供えます。さらに浄土宗では、樒を供えるだけでなく儀式の中にも取り入れています。このように樒の取り入れ方は、宗派や地域によって異なります。
板樒、紙樒
会場や自宅に飾る花輪や門樒は華やかではありますが、どうしてもある程度のスペースを確保する必要があります。そこで一部の地域では、門樒の代わりとして板や紙に墨で名前を書いたものを使用することが増えており、これを板樒、紙樒と呼びます。
板樒や紙樒は、葬儀会場の受付で一定の金額を支払えば、すぐに名前を書いて掲示してもらうことが可能です。樒を飾るという意味は残しつつも、利便性を併せ持った方法として定着した習慣と言えるでしょう。
但し、これはどこでも行われている習慣ではないため、希望する場合は事前に問い合わせをしておくことをお勧めします。